那須塩原の盆栽園『藤川鳳政園』代表、藤川政幸さんと言えば、数々の賞も受賞し、名実ともに次世代の盆栽界を担う中核的存在だ。この道に入ってもうすぐ30年。藤川さんは何を考え、盆栽と向き合っているのだろうか。
針金掛けの達人、藤川政幸
親方に教わったこと、自分がやるべきこと
盆栽園の息子として生まれた藤川さんは、子どもの頃、まったく盆栽に興味がなかったという。庭にある木も、雑草も、盆栽も、山の木も、全部一緒。“緑の物”でしかなかったそうだ。しかし、後に親方となる方の盆栽園に行くと、盆栽に対する認識が変わったそうだ。
「うわ! なにこのカッコイイやつ!!」と思いました。侘びとか寂とかじゃなくて。それまで自分の家にある盆栽からは、なにもパッションを感じなかったんですけどね。木村さんの所で見た盆栽、真柏は別格。とにかくカッコよかった。
そして20歳になった藤川青年は、弟子入りすることとなる。親方は盆栽界の巨匠、木村正彦氏。そう、初めて盆栽をカッコイイと思わせてくれた方だ。
弟子入りする際、親父には「とにかく3年やれ」って言われたけど、1年ぐらい経ったら、「そんなに甘い世界じゃないな…」と思いました。だから「5年やります」って言ったんです。でも5年経ったら6年、6年経ったら7年という具合で…。親方の育て方がいいのか、もったいぶった教え方がいいのか分かりませんが、やればやるほど新たな発見があるんです。この枝を1センチ下げたら流れが変わる…とか、辛いんだけど、どんどん面白くなってきて…。
結局、藤川さんは10年、修行を続けた。その終わり方は予想もしない展開だった。
親父が癌になりまして…ね。親方に様子を見て来ますと言って帰ったら、もう修行には戻れなくなりました。そして親父が亡くなり…。普通なら親子で少しやって、得意先に顔見世して、引き継ぎじゃないですけど、そういう流れになるじゃないですか。でも割りと急だったから、それもできず…。親方がお通夜に来てくれたとき、「親方、ひとりじゃ出来ないから、親方のところで職人として働かせてもらえませんか?」と言いたかったですよ。でも親方に「藤川君、ひとりでできるな、大丈夫だな、頑張れるな」と言われたら、「はい」って言うしかないじゃないですか。
思いもよらぬ展開で、藤川鳳政園を継いで17年。いまでは弟子を取る立場になった藤川さんだが、師弟関係についてはどのようにお考えなのだろうか?
修行は大事な経験だと思います。修行しないと、絆は生まれませんから。親方と弟子だけではなく、盆栽家とお客様だって、絆がないと成立しません。「お前にだったら、この盆栽を託せる」みたいな感覚は、絆ですよ。言い換えればお互いの覚悟。お金じゃない。でも、いまの時代は、なかなかそういう関係にまで発展しませんね。弟子なのか、バイトなのか、関係が曖昧になりがちです。
木村さんのもとで修業し、園を引き継いでからも技術に磨きをかけ、いまでは針金掛けの達人とまで言われるようになった藤川さん。とにかく直すのが得意なのだ。
手入れは、ふたつあります。維持する手入れ、カタチをより良くする手入れですね。私は後者が得意で、お客様から預かった盆栽を2週間かけてベースを作って、あとはお客様の元にお戻しして直していくパターンですとか、3年、5年と長期間お預かりして、じっくり直していくパターンなど、さまざまです。いずれにせよ、お客様が可愛がっている盆栽を、どう維持して、どう良くしていくかが、メインの仕事になります。今後は自分だけではなく、手入れできる人を増やしていくのも、自分の仕事かもしれないと思っています。来た人に教えるだけではなく、例えば映像にして、海外に技術を売る…なんてこともあるかもしれない。将来的にはね。そんなことも考えながら、日々、盆栽と向き合っています。
藤川鳳政園への問い合わせ先

栃木県那須塩原市睦104-4
TEL 0287-36-7063